KKP 小林賢太郎プロデュース公演

小林賢太郎プロデュース公演「KKP」はその名の通り、賢太郎さんが脚本・演出・出演の他、プロデュースも行う演劇公演。 7作目の「ロールシャッハ」以降は「小林賢太郎 演劇作品」と表記されている。

▶︎ 小林賢太郎演劇作品 公式YouTube

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私にとって「うるう」は「魂ごと持っていかれたような衝撃」だった。


うるう は、2011〜2012年(初演)、2015〜2016年(再演)、2019〜2020年(再々演)上演の演劇作品。 4年に一度のうるう年に全国ツアーを行い、いずれも閏日2月29日が千秋楽。
小林賢太郎 脚本・演出・プロデュース公演(KKP)#008。
音楽・チェロ演奏は徳澤青弦さんが担当。

2020年5月27日にサウンドトラック『うるうの音』発売。
2020年8月5日にDVD・Blu-ray発売。

▶︎ うるう(Blu-ray)
▶︎ うるう(DVD)

《関連》
▶︎ うるうのもり




公演

初演(2011-2012年)
・東京公演:2011年12月21日〜12月25日 東京グローブ座
・静岡公演:2011年12月29日〜12月30日 グランシップ中ホール・大地
・福岡公演:2012年1月6日〜1月11日 西鉄ホール
・札幌公演:2012年1月19日〜1月22日 かでるホール
・名古屋公演:2012年1月26日〜1月29日 テレピアホール
・仙台公演:2012年2月1日〜2月2日 仙台市青年文化センター・シアターホール
・東京公演:2012年2月8日〜2月19日 銀河劇場
・大阪公演:2012年2月23日〜2月29日 サンケイホールブリーゼ

再演(2015-2016年)
・横浜公演:2015年12月17日〜12月20日 神奈川芸術劇場 ホール
・小松公演:2015年12月26日〜12月27日 こまつ芸術劇場うらら 大ホール
・北九州公演:2016年1月9日〜1月11日 北九州芸術劇場 中劇場
・大阪公演:2016年1月14日〜1月18日 サンケイホールブリーゼ
・広島公演:2016年1月23日〜1月24日 JMSアステールプラザ 中ホール
・名古屋公演:2016年1月27日〜1月28日 アートピアホール
・いわき公演:2016年1月30日〜1月31日 いわき芸術文化交流館アリオス 中劇場
・札幌公演:2016年2月5日〜2月7日 かでるホール
・東京公演:2016年2月17日〜2016年2月29日 本多劇場

再々演(2019-2020年)
・東京公演:2019年12月28日〜12月30日 東京グローブ座
・金沢公演:2020年1月7日 金沢市文化ホール
・札幌公演:2020年1月11日〜1月13日 かでるホール
・広島公演:2020年1月17日〜1月18日 JMSアステールプラザ 中ホール
・豊橋公演:2020年1月22日〜1月23日 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
・北九州公演:2020年1月25日〜1月26日 北九州芸術劇場 中劇場
・仙台公演:2020年2月1日〜2月2日 日立システムズホール仙台 シアターホール
・新潟公演:2020年2月4日〜2月5日 りゅーとぴあ・劇場
・静岡公演:2020年2月13日〜2月14日 グランシップ中ホール・大地
・横浜公演:2020年2月19日〜2月24日 神奈川芸術劇場 ホール
・大阪公演:2020年2月26日〜2月29日 サンケイホールブリーゼ


あらすじ

森に住む主人公「ヨイチ」には人には言えない秘密があった。ある日その森に、8歳の少年「マジル」が迷い込んで来る。 何もかもが正反対の2人が出会ったことで、ヨイチの「日常」は少しずつ変わり始め、そして・・・。


キャスト

・小林賢太郎
・徳澤青弦


スタッフ

・作・演出・出演:小林賢太郎
・演奏:徳澤青弦
・衣裳:伊賀大介
・音楽:徳澤青弦
・舞台映像:松永ホマレ
・宣伝美術:good design company
・写真(フライヤー):鈴木心
・ヘアメイク(フライヤー):YUUK(W)
・企画・制作著作:スタジオコンテナ




ホールに入ると小鳥のさえずりと共に「森」が私を迎えてくれた。
絵本「うるうのもり」の硬い表紙をめくると広がる「緑の森」が
そっくりそのまま緞帳になっていた。
客入れに音楽を取り入れる公演は多いけれど、「うるう」は「森の音」を流すことで
ホールに入った瞬間から「物語の一員になれる魔法」を用意してくれていた。

時々、小鳥のさえずりと共にフクロウの声も聞こえてくる。
空調の風はいつしか、森の澄んだ空気の流れに変わる。
雰囲気を察してか、観客は声を立てない。そのピンと張り詰めた空間がとても心地いい。

ホールにいる観客ひとりひとりが、森で暮らすそれぞれが思う生き物としてそこにいた。
私も森の樹の一本としてそこに在りたいと思いながら座席に座った。



2020/01/17・広島公演はそんなスタートだった。

私は初演と再演を知らない。
2012年版・2016年版も開演前の空気はこんな感じだったのだろうか。


改めて振り返ると「うるう」という作品は、演劇、ミュージカル、コント、絵画、パントマイム、手品、ラップ、生演奏、プロジェクションマッピング・・・ と、 エンターテインメントとして考え得るありとあらゆるものが詰め込まれた、 とてつもなく贅沢な作品だと気づかされる。「小林賢太郎の全てがここにある」と言っても過言ではない。


私は幸運にも、広島、北九州、大阪と数ヶ所で数回「うるう」公演を堪能できた。 座った場所がそれぞれに違ったことで「マジル目線」「ヨイチ目線」「森目線」と、いろんな感情も体験させて貰った。 どの公演もそれぞれにとても個性的で、どの回にも感動した。

中でも忘れられないのは北九州初日・1/25(土)公演。
この日のヨイチはものすごくヨイチだった。 どの公演でもそれはヨイチその人だったのだけれど、この日は桁違いで、カーテンコール以外一瞬たりとも、賢太郎さんの気配を感じなかった。
どんな公演でも感情移入はするし物語に没入もする。登場人物を「その人物」として認識もする。それでも頭のどこかで、あれは「役者の○○さん」だと知っている。

そういう意味で、あの日、そこにいたのは「ヨイチ」以外の何者でもなかった。

衝撃だった。こんなことがあるのだ・・・と。

この日の私は「ゾーン」に入っていたのだろうか。そこが森で、目の前にいる人がヨイチでしかないと 感じた理由が例え「私自身の観劇コンディションが最高潮だった」からだとしても、あの感覚は一生忘れられないだろう。 いつかまた、こんな素晴らしい体験ができるだろうか。


各会場で、マジルと同じ年頃の子供たちを思った以上にたくさん見かけた。とてもほほえましくとても羨ましい。 もしも願いが叶うなら「8歳の私」にうるうを見せてあげたいと思う。小さな彼女は、このとてつもなく美しい物語にいったい何を感じるのだろう。 そしてどんな大人に育つのだろう。


出会いは必然だ。マジルが森に通うようになって初めて、ヨイチは「誰かを待つ幸せ」を享受する。それは「コヨミさんに会いに行く幸せ」と少し似ていて少し違う。 自分から取りに行くのではない。向こうから来てくれるのだ。「待ちたい誰かがいる」そんなこと、これまでにはなかった。

息を切らし森の奥へと駆けて来るマジルの小さな足音がだんだん大きくなる。 ヨイチにその自覚がなかったとしても、マジルの気配を感じる度に、彼がどれほど幸せだったかは容易に想像できる。

全ては、あの日あのタイミングで二人が出会ったからこそ始まった。 少しでも条件が違っていたら出会うことすらなかったかもしれない。カノンもまちぼうけも聞こえてこなかったかも知れない。 架空の人物と知りながら「出会ってくれて、ありがとう!」そう思ってしまうのだ、どうしても。 人が「その人」としてそこに生を受けるのは、きっと特別に意味のあることなのだと思う。

マジルとの出会いまでに、ヨイチが両親やクレソン先生から愛されて育ったことも忘れてはならないポイントだ。 彼らが側にいた間、特殊な形であったにしてもヨイチには居場所があった。無条件で愛された思い出が根底にあるからこそ、 ただひとり森の奥深く深くに在ってなお、彼は生きることをやめないでいられたのではないか、そんな風に思えてならない。


出会いは必然と書いたけど、私の場合は2020年に「うるう」と出会うことが必然だったのかもしれない。 このタイミングだったから、今の私だから、こんなに共鳴したのだとしたら・・・。
そう考えることにして、初演、再演を見られなかった悔しさになんとか折り合いをつけたいと思う。

映像作品となった「うるう」について、横浜公演を観劇した友人の話では、2/21・22に撮影らしきカメラが入っていたとのこと。 映像化の良さは、客席からでは見ることのできない角度からも作品を楽しむことができること。 そして何と言っても、好きな時に何度でも「あの森へ行ける」こと。「うるう」という宇宙が今こうして自分の手元にある。とても幸せだ。

世界にはまだこの作品と出会っていない人達もいるだろう。賢太郎さんがパフォーマーを引退した今、観る手段は残された映像のみになってしまったけれど それでも、これから生まれる人を含め、ひとりでも多くの人達にこの愛おしい物語が届くことを願ってやまない。


ある友情の物語「うるう」は「自分では変えようがないものとの向き合い方」の物語でもある。
だから私は、ヨイチの姿に自分の人生を重ねて見てしまうのかも知れない。 観る度に新しい感情が生まれるのかも知れない。 誰よりも幸せであって欲しいと願わずにいられないのかも知れない。


▶︎ 小林賢太郎より:2020.02.29(土)のアーカイブ


大阪からの帰り道「小林賢太郎より」がアップされた。
観劇で感動し、ブログに書かれた言葉に更に感動した。嬉しくて仕方なかったことを思い出す。

そして今でもアーカイブが残っていることがとても嬉しい。旧ホームページにはもうアクセスできないけれど、今でもこうして賢太郎さんの過去の言葉をたどることができる。 私にとっては賢太郎さんが残してくれた言葉たちは、やっぱり宝物だから。



賢太郎さんのパフォーマー引退という、これまでの人生観・価値観が一変する衝撃の出来事もあった2020年は「うるう」と劇場で出会えた 他にはかえられないスペシャルな一年でもあった。


大千秋楽から3年近く経った今、振り返って思う。
私は2020/01/17広島で、一生の付き合いになる親友(うるう)を得たのだ。






もうちょっとだけ物語に踏み込んだ感想 ▶︎
「うるう」にまつわるあれこれ ▶︎
2024年「うるう」問題 ▶︎



2023/02/27更新

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