人生が想像どおりになるほど人間の想像力は豊かではない

せっかくだからあの日観たものについて、覚えていることだけでも残しておこうと思う。

「2017」と年号の入ったその作品は小さな劇場用にかなり手が加えられており、2015年版「ポツネン氏の奇妙で平凡な日々」のいわばパラレルワールドだった。

「基本は同じ」と賢太郎さんは言うけれど、私には全く別の世界に見えた。そして確実に海外を意識して作られたモノだとも感じた。 カーテンコールで話してくれたロンドンの女学生とのディスカッションも、多分に影響しているのだろう。


“ Mr Potsunen's Peculiar Slice of Life ” PR Movie
※2017年、海外公演を前にアップされた「ポツネン氏の奇妙で平凡な日々」のPR動画


「ポツネン氏には友達がいなかった」


冒頭の一節が映し出された時点で、私は知らない世界へ足を踏み入れたことを悟る。
2017年版は全てに於いて、表現がかなりストレート。ブラッシュアップは随所に見られた。


街づくりに励むポツネン氏の落下映像が、長くバリエーション豊富になっていたり、 遅れて落ちてくるコテを(多分わざと)取り損ねたり、劇場サイズ縮小に伴い室内が模様替えされていたり、 森がカラフルになっていたり、虫捕りシーンの尺がコンパクトになっていたり。

日本的な笑いの要素「或いは昆虫ではない」のテロップがまるまるカットされていたり、 みなし冷蔵庫が普通に冷蔵庫になっていたり、ハンカチと丸球根ちゃんの浮遊マジックショーが一段と不思議で素敵になっていたり、 散歩コースが短くなっていたり、猫と喧嘩しなくなったり。

火の輪くぐりのシーンで黒子さんが客席に降りてきて、見ている自分も球根ちゃん目線でポツネン氏のお手本を見ているような不思議な感覚になったり、 たしなめるときはちゃんと球根ちゃんの目を見て叱っていたり、教育シーンのお題がよりグローバルでストレートな表現になっていたり。

アマゾンからの荷物を組み立てた時の不足パーツの位置が移動していたり、エレベーターで別世界へ迷い込むシーンでの遊び部分が無くなり、 かなりシンプルになっていたり、黒子カメラコントでは内容と見せ方がグッとスマートになっていて、 遊びながら、楽しみながら、新しい道具と良きパートナーになるまでの過程が 更に良く伝わって来るよう工夫されていたり(このシーンの最後で棚のカメラをライトでクローズアップするのがとても素敵だった)

壁の中から助け出された後ポツネン氏が球根ちゃんにハグしようとしたり(キュン♪ポイント)、 ポツネン氏の夢の中でバカンスを楽しむのがポツネン氏一人ではなく、球根ちゃんと二人になっていたり(ここも凄く好き)、 球根ちゃんを探して森の奥深くへと踏み込む様子がとてもリアルになっていたり(めちゃくちゃ素敵)、蝶を捕獲した後がちょっぴり違っていたり・・・。


徹底的に磨きをかけたことで失われたものもあり一抹の寂しさはあるものの、伝えたいことはより明確になっていたように思う。 球根ちゃんを探しに出かけるところからラストまでのクライマックスシーンについては、両者はずいぶんと違った印象になっていた。 私は2015年版・2017年版、どちらもとても好きだ。

あえて言うなら、2015年版ではとても切なくドラマチックだったサヨナラのシーンは、 2017年版では更に洗練され、もう一歩踏み込んだ内容になっていた。

ヒナが巣立ちを迎えるように来るべくして来た別れ。どんなにお互いを思い合っていても、もう一緒には暮らせない。 球根ちゃんとポツネン氏、それぞれの前に「明日」という名の道が見えた。

再会を喜びあった後、美しく巨大な樹木へと化した球根ちゃんの根元に腰を下ろしたポツネン氏。 無事を確認できたことへの安堵の色が見て取れた。この子はいつの間にこんなに大人になっていたのか。 守るべき存在だったハズなのに。わかっている、失ったのではない。それでも、圧倒的な寂しさはこれからやって来るのだろう。 いつしか二人の間には、目に見えないものが積み重なっていく。


2015年版・2017年版、どちらの世界も愛おしさで満ちている。 寂しいけれど、たもとを分つことはサヨナラのようでサヨナラじゃない。その絆は永遠に・・・。

その後、新しい「球根ちゃんの素」との暮らしはどうなっているのだろう。 散歩に教育、お茶、そして時には巨大な樹木の元球根ちゃんに一緒に会いに行ったりと、 ポツネン氏は今も変わらず「奇妙で平凡な日々」を過ごしているのかもしれない。


実は2017年版のポツ日々チケットは、当日券チャレンジでゲットした。これもいい思い出だ。


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2022/12/01

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