2014年末の下北沢からスタートし、パリ、ロンドンでの上演を経て、2015年夏に日本で全国ツアーが行われた。 言葉はほぼ使わず、映像・パントマイム・マジック・音響効果などを織り交ぜた、世界中の誰もが楽しめる「ここではないどこか」の物語。


人生が想像どおりになるほど
人間の想像力は豊かではない。

私はこの字幕の言葉がとても好きだ。この物語の世界そのままを表現していると感じるから。
人生は何が起こるかわからない驚きに満ちている。このフレーズが物語の中に2度登場することにもグッと来た。想像の斜め上で驚嘆していたら、そのはるか彼方を平気で超えてくるのが人生だから。 もし「ポツネン氏の奇妙で平凡な日々」の絵本を発売することがあるとしたら、帯のキャッチコピーは是非この言葉で飾って欲しい。


「ポツネン氏の奇妙で平凡な日々」は、私にとって愛おしくて仕方がない作品だ。
「白い丸」との出会い。この自身の想像をはるかに超えた出来事を丸ごと受け入れるポツネン氏。 ひとりからふたりになった新しい日常の中で「白い丸」がポツネン氏にとって、徐々に大切な存在になっていく過程が愛おしくて仕方ない。 そして、自分が守っていると思っていた「白い丸」がいつの間にか・・・。


見る時々で色んな顔を見せてくれる「ポツネン氏の奇妙で平凡な日々」。
それは、私がこの物語に「その時々の自分」を投影してしまうからかもしれない。

ポツネン氏と「白い丸」が特定の誰かに見えたり、二人の関係が今は亡き愛猫と自分のことのように思えたり、別々の道を歩むことになったかつての盟友を思い出したり。 物語ではポツネン氏が飼い主で「白い丸」はペットだけれど、実はこれはどちらも「意志」と「夢」という自分自身を擬人化しているのではないかと感じたり。
ポツネン氏と「カメラ」のシーンでは、こんな風にいつか仲良くなりたいと思う「使いこなせていない道具」が観る時期で違ったり。 自分で自分を追い詰めてしまったあの時が蘇ったり。困難に直面した時に手を差し伸べてくれた人のあたたかさを思い出したり。

これはポツネン氏の物語のハズなのに、まるで自分の人生を見ているような不思議な気持ちになる。
ここではないどこかの物語なのに、なぜかとても近くに感じる。
ここではないどこかは「ここかもしれないどこか」なのかもしれない。


技で魅せるという部分でも（これはこの作品に限らないのだけれど）感動せずにはいられない。 「白い丸」との散歩のシーンでのパントマイムな動きだったり、映像と完全にシンクロしている動きだったり。 出会った夜の「白い丸」とのやり取りは、マジックのタネを知っていても毎回その動きに感動する。生きて動いているようにしか見えない。その素晴らしさにため息が出る。

音に反応し、ひと目見てそれとわかる貴方が好きですポツネン氏。
そこに流れる二人の時間がただただ愛おしい。
あまりの美しさに圧倒され、身体の真ん中には得も言われぬじんわりとしたあたたかさが残る。
「煙」のシーンも最高に好きだ。あそこはもれなく観客全員が好きなんじゃないのかな、多分。


ポツネンシリーズは「ポツネン氏の奇妙で平凡な日々 2017年」が最後の作品となった。
もしも賢太郎さんが今も舞台に立ち続けていたら、このシリーズの更なる進化形を見ることができたのかもしれないけれど 「ラーメンズ」と「ポツネン」だけは賢太郎さんなしでは意味を成さない。続編が出ることはないのだろうけど、スピンオフならその可能性はあるかもしれない。 これを言うのは反則だけど、何年後でも構わないから「ポツネン氏の奇妙で平凡な隠居生活」観たかったな。


【東京公演】
2014/12/17〜12/28：本多劇場
全席指定、前売6,000円、当日6,500円（税込）

【パリ公演】
2015/01/29〜01/31：フランス・パリ日本文化会館

【ロンドン公演】
2015/02/03〜02/04：ロンドン・Leicester Square Theatre（レスター・スクウェア劇場）

【全国公演】
■東　京　2015/07/10〜07/20　東京グローブ座
■金　沢　2015/07/24　金沢市文化ホール
■仙　台　2015/07/28〜07/29　日立システムズホール仙台
■名古屋　2015/08/04〜08/05　名古屋市芸術創造センター
■大　阪　2015/08/07〜08/12　サンケイホールブリーゼ
■広　島　2015/08/14〜08/15　アステールプラザ中ホール
■札　幌　2015/08/21〜08/22　かでるホール
■東　京　2015/08/25〜08/30　Bunkamuraシアターコクーン
■福　岡　2015/09/04〜09/07　西鉄ホール



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