第12回公演:ATOM
本公演第12回
2002/12/25~2003/01/12
カテゴリー:本公演
「鉄腕アトム」は心やさしい科学の子。10万馬力で空を飛ぶ。
第12回公演:ATOM アトム
手塚先生の原作通りなら、アトムはラーメンズ第12回公演「ATOM」が上演された2003年に誕生しているハズだった。
ここしかないそのタイミングで本公演に「ATOM」を持って来た賢太郎さんの奇才っぷりには、いまだに鳥肌が立つ。
賢太郎さんはいつから「ATOM」を育てて来たのだろう。2003年という年に「ATOM」を世に送り出す瞬間、どんな思いだったのだろう。
子供の頃は21世紀にはアトムが「いる」と思っていた。
大人になるといつの間にか、それは「いたらいいな」に変わっていた。
アトムがいたらいいのに〜と思ったのは、どうやら私だけではなかったようだ。
そしてただ思っていただけの私とは違い、行動に出た人達がいた。
鉄腕アトムに憧れ、ロボットの研究を始めた高橋智隆さんが「クロイノ」を発表して以降、ちょっとした人型ロボットブームが巻き起こった。
ロボットと暮らそう!をコンセプトに売り出された家庭用ロボット「ロビ」は、世界で一番売れた二足歩行コミュニケーションロボットだ。
テレビでは「アシモ」の皆さんがアルゴリズム体操を披露し、銀行のロビーでは「ペッパーくん」が案内を買って出てくれる。
形を人型に限定しなければ、ルンバやアレクサを搭載したものなど、今では数えきれないほど多くのロボット達が日常の至る所で活躍し人間と共存している。
2017年には本家本元の「鉄腕アトム」がモデルの、家庭用二足歩行コミュニケーションロボット「ATOM」も発売された。
講談社・手塚プロダクション・NTTドコモ・富士ソフト・VAIO の5社が共同で開発したものだ。
このロボット達は皆、正真正銘の「鉄腕アトム」へと繋がる軌跡のような存在なのかもしれない。
私は間に合うだろうか。当たり前にアトムが空を飛ぶ日常に。
アトムに会いたい。
その夢を本気で叶えるために手段を選ばなかった強者もいた。
コント「アトム」に登場する青年アトムの父親だ。
彼の場合、正確には「アトムに会いたい」ではなく「アトムがいる時代(未来)に暮らしたい」で、「アトムそのものを作ろう」とする人々とは
視点も少し違っていた。
「自分自身が未来へ行く」そこからもうぶっ飛んでる。
タイムマシンはまだない時代。アトム父は考えた。アトムが空を飛ぶ2003年までの30年をどうやって飛び越えよう。
たどり着いた答えは、
生きたまま年を取らなければいい。
医療現場では救命救急の分野で冬眠技術を使うことがあるそうだ。一旦仮死状態にしてから治療を進めるらしい。
実際に一週間程度であれば、人間を冬眠状態にできるという。コールドスリーブ(人体の冷凍保存)は
現在はまだ治せない疾病でも未来では治せるのではないかという期待の中で始まったもので、今のところ亡くなった方のみが対象。
ならば自分で作るしかない。アトム父は「仮死状態維持装置」を完成させるべく研究に没頭する。最初は1日も早く完成させたいと思っていた。
でもそれは年を重ねるごとに「なんとか死ぬまでにたどり着ければ・・・」に変わっていった。どう考えてもそんなに簡単な仕事ではない。
夢には叶えるために見る夢と、叶わないと知りつつも見続けずにはいられない夢がある。
自由に使える時間は全て研究に捧げる日々の中で、共に同じ夢を追いかけてくれる人生のパートナーに巡り合い結婚。
新しい命も授かり誕生を心待ちにしていた。名前もすぐに決まった。「男の子ならアトム、女の子ならウラン」二人の思いは同じだった。
「今の研究が終わったら、次はどこでもドアを作ろうよ!」そんな冗談を言い笑い合う幸せな日々の中で、その時は突然やってきた。
完成してしまったのだ「仮死状態維持装置」が。そして彼は時を超えた。
このコントは爆笑の連続だけど、テーマは重い。
観るたびに感じる疑問「この父親にとって息子アトムはいったいどんな存在だったのか」
同時に息子アトムの健気さに胸が痛くなる。私だったらこの状況に納得できるのか甚だ疑問だ。
アトム父に関しては、気持ちいいくらいに突き抜けた自己中キャラだからこそ面白いし、
実際には起こり得ない設定だとわかっているからこそついつい笑ってしまうけど、それは心のどこかで「他人事」だと
思っているからではないのか?と、とても複雑な気持ちになる。
「仮死状態維持装置」が完成してしまった時、彼は今すぐ試したくて仕方なかったのだろう。これから生まれてくる
我が子が成人するまで待つなんて発想は毛頭なかった。今の30歳の自分が未来で目覚めることだけが頭の中を支配していた。
絶対に他の誰にも先を越されたくないし、どうせ未来で目覚めるのなら1日でも若い方がいい。彼はその時、世界で一番「自己中」だった。
ある一線を越えてしまうその瞬間。
夢を持ち続けることも自分に正直であることも、時にはとても残酷だ。
たったひとつしか選べない究極の選択を迫られた時、私もアトム父のように「自分の夢」を選んでしまうのかもしれない。
また、このコントでは「未来」の捉え方がとても面白い。
アトム父が思う「未来」と、息子アトムが思う「未来」は根本から違う。
「未来、来てねえんだから意味ねえじゃん」
30歳の青年に立派に成長した息子を前にしてさえ、父にとってそれは未来ではなかったのだから。
父のそれはステレオタイプ。単に科学技術が発展しただけの「今の彼にとって」もの珍しい「それ」でしかない。
そんなものは一年もたたないうちに「普通」になる。例えアトムがいる未来へ行けていたとしても、
彼は更なる未来を求めてまた30年の眠りにつこうとするのだろう。
対して息子のそれは「自分がバトンを渡す先にあるもの」だ。この時代に生まれた命を精一杯に生き、全うする。
同じことの繰り返しに見える日々の中で、植木屋で培った技術を後輩に引き継ぐことも未来。付き合っている彼女と家庭を持ち共に歩くことも未来。
二人の間に子供が生まれればそれこそ、その子は「未来」そのものだ。
自分の手から次の世代へつないだものが例え途中で途絶えたとしても、彼にとってはそれも含めてあるべき未来の姿なのだろう。
とはいえね、もしもできちゃったら、息子アトムも絶対に使うと思うんだ。どこでもドア。
この親子、ゆっくりでいいから失った30年を取り戻せるといいね。
もしかしたら息子アトムにとってはこの30年こそが当たり前の日常で、実は何ひとつ失ってはいなかったのかもしれないけど。
そして何より「最後のセリフ」が・・・。賢太郎さん、やっぱ神。
2022/12/01
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