ショートフィルム『 くしゃみ 』のこと


架空の劇場「コントロニカ」について、日々思うこととか感想とか。


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2023年

2023/08/03(木)


ショートフィルム『くしゃみ』(9分3秒)
出演:竹井亮介 加藤啓 辻本耕志 小林きな子
監督・脚本:小林賢太郎


2020年9月5日、小林賢太郎のnote上で配信された「カジャラジオ」最後の作品(コントとしての)は「くしゃみで消える男」。 その出演者が竹井さん・辻本さん・賢太郎さんの3名だったことは、まだ記憶に新しいのではないかと思う。
今回のショートフィルム『くしゃみ』は若干セリフは異なるものの、同じテーマのバリエーション作品にあたるのだろう。 賢太郎さんの役はそのまま啓さんに引き継がれている。そして前回と大きく異なるのが「小林きな子」さんの存在だ。

アイデアを形にする時、発表の媒体に何を選ぶかでそのアプローチは大きく変わる。 音声と文字のみの作品「カジャラジオ」では意味をなさない「居酒屋の店員」役は、ショートフィルムでは第三者の視線を担う視聴者の代弁者でもある。 加えて、その空間ごとまるっと俯瞰で映し出す神の視線「監視カメラのモニター映像」の存在がとてもいい。
シチュエーションも、音声作品の時は視聴者それぞれが思う空間だったものが「居酒屋」として決定づけられた。 これが賢太郎さんの頭の中にあった設定だったんだなあと、まるで答え合わせをするような感覚を覚えるのがまた面白い。

また、音声作品の時に想像していた表情を遥かに超える「豊かな表現」を見せてくれる出演者の演技にも感動。 自分の頭の中の想像だからこそ見ることができる世界と、自分の頭の中だけでは想像しきれない世界。 今、その両方の面白さを堪能している。


『ショートフィルム:くしゃみ』と『カジャラジオ:くしゃみで消える男』はベースとなるストーリーは同じだけれど、 それぞれが独立した作品として各々の世界観を誇っている。どちらが優れているということではない。どちらも違ってどちらも良い。 発表する媒体の特性や強みを活かせば活かす程、物語はより広がりを持ち面白みを増す。
そんなことを再認識したショートフィルム『くしゃみ』。

例えば「消える」や「透ける」の表現などは、視覚にダイレクトに訴える「ラジオコントでは味わえない」種類の面白さだし、 ラジオコント「くしゃみで消える男」では、視覚的要素に制限がないからこそ、 場所も季節も登場人物のビジュアルさえも聞き手の好みで自由自在だ。 それこそ場所を未来の火星のドーム内に設定することもできるし、 竹井さん・辻本さん・賢太郎さんをお揃いの制服を着たパイロットの同期生という設定で想像することだってできる。 祭りの夜を楽しむ浴衣姿の3人衆なんていうのもいいよね。
作品をどう受け止めるかは人それぞれだけれど、楽しみ方を自分なりに工夫できればできるほど、 面白さは増すし、作品そのものへの愛着も深まっていく。

これまでにもバリエーション(リメイク含む)作品はいくつも発表されてきた。 映像から映像では「風と桶に関する幾つかの考察」や「RIFUZIN」からの「説得選手権大会」、 文字から音声では「アブラーゲ」などなど。 次にバリエーション作品が登場するとしたら、それはどの作品だろう。 そんな想像を巡らせることも楽しみのひとつだ。


今回のショートフィルム、居酒屋のセットが私にはかなりツボ。壁に貼られたメニューの書体がどれも素敵。その配色もとても好き。 そして竹井さんの後ろに貼られた2枚の「十四代」に釘付けになった。美味しさの感動が全身に染み渡る大好きな日本酒。 今すぐいただきたいぞ!十四代。 ウイスキーを時折たしなんでいるらしい賢太郎さんだけど、もしかしたら日本酒もお好きだったりするのかな。 キャラに「大吟醸」なんて命名するくらいだから、きっと・・・ね。

これは蛇足だけれど、私は「バリエーション」と聞くとどうしても TOWERの「ジャガイモ」からの「バレイショ」からの「バリエーション」を思い出してしまう。 賢太郎さんが選ぶ言葉達には心に引っ掛かるものがとても多いように感じるのだけれど、 それは私がラーメンズおよび小林作品に心酔しているからなのか、賢太郎さんの書き手としてのテクニックなのか、 いつか解き明かしたいものだ。





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