『 回 廊 』配信公演終幕。


架空の劇場「コントロニカ」について、日々思うこととか感想とか。


シアター・コントロニカへ戻る ▶︎

2023年

2023/05/08(月)


配信コント公演『回廊』が、昨日5/7(日)24:00をもって終幕。 KAATでの収録公演がスタートしてから配信終了までの約1ヶ月は、文字通りアッという間だった。 凄く楽しかったんだろうね、私。

世の中にコロナ禍前の平穏が戻れば、コントロニカも架空の劇場を飛び出して、全国津々浦々を 訪れてもくれるのだろうけれど、それはもう少し先の話になりそうだ。 だからこそこの配信公演が、在り方としても、見せ方や届け方においても、これまでにはなかった新しい形で成立し、 成功をおさめたことの意味はとても大きいんじゃないのかな。

私自身は生の舞台に勝るものは無いと思っている。 とはいえ、皆それぞれにいろんなモノを抱えながら懸命に生きているわけで、 努力や工夫次第で劇場に足を運べるのであれば、その人達はやっぱり運がいいのだとも思う。 そもそもどんなに身体が空いていたとしても、肝心のチケットがご用意されないことだってある。そのやり切れなさったらない。

「せめて配信だけでも・・・」その願いが叶うだけでも、実はとてもありがたい。

物理的に現場での観劇が叶わない人達の間では特に、配信公演というシステムの需要が今後ますます高まるのだろう。 インフラもそれなりに整備され、ライブビューイングや同時配信などもすっかりお茶の間に浸透している。 けれどもそれは、日々どこかで上演されている公演のごく一部にすぎない。 たとえ公式から円盤化されるとしても、それには半年から1年近く待ち時間が必要だ。


今回の公演『回廊』は配信公演だと発表があった時には、既に世にあるソレを連想した。 千秋楽公演のライブ配信か、収録後編集を経て、翌月あたりの配信になるのだろうと勝手に思い込んでいた。

ところがそこは賢太郎さん。 予想のはるか斜め上を行く、過去に例のない斬新な「配信コント公演」を届けてくれた。 初めて見るソレは、既存の「配信公演」とは在り方そのものが全く違っていた。

KAATで行われた観客を入れての収録公演は配信公演のための素材。配信公演こそが本公演。
配信公演(特典映像つき)には、賢太郎さんが描いた回廊の絵がデザインのリアルな「紙チケット」がご用意された。 しかも「あなたのために、一番いい席をご用意いたしました」の一文を添えて。


賢太郎さんはこの構想をどのくらい前からあたためていたのだろう。
千秋楽当日、昼公演の3時間後に、夜公演(大千秋楽)として編集済の完全版を配信する。 通常ではあり得ないそのスピード感に、ただただ驚いた。 しかもそれは、事前に制限なしのカメラワークで収録しておいた、様々なアングルからの映像もふんだんに盛り込まれた この配信映像でしか観ることが叶わない、生の舞台とも、ライブ配信などとも一線を画する唯一無二の大千秋楽公演。

この届け方とスピード感こそが配信コント公演『回廊』の最大の特徴でもあり、 賢太郎さんが完全に裏に回ったからこそ叶えられたビジョンのひとつなのだと感じた。
「生の舞台に勝るものはない」と私は思い続けてきたのだけれど、 賢太郎さんはコントロニカだからこそ、この新しい架空の劇場で「生の舞台に勝るもの」を作ろうとしたのだろう。
まさに鬼才。それを思いつくことも、実行に移すことも、形にしたことも。

もうひとつ忘れてはならないことがある。 共にその世界を作り上げようと、才も労も惜しまない人達が賢太郎さんの側にいる。 作品を受け取る側として、これは本当に心強いしとても嬉しい。


また今回の『回廊』公演に関しては、収録公演に観客を入れたこともいい結果につながった要因のひとつだと思う。 「コント作品はそこにお客さんの笑い声がのって初めて完成する」を目の当たりにしたような公演でもあった。 このステージと客席とのコミュニケーションは、他には変えられない舞台の魅力のひとつだ。だからこそ観客は劇場に集う。

コロナ禍以降、チーム小林賢太郎としては初となる舞台作品『回廊』。 初の試みも満載で、予測不能なまま突き進んだことも多かったのでは?と思う。 自信も勝算もあったとは思うけど、実際に幕があがるまでは、不安は完全にゼロではなかったんじゃないのかな、いろんな意味で。

届ける側の自信が確信に変わったのは、リアルに、ダイレクトに観客の反応を受け取り、 客席とのキャッチボールができたことも大きかったのではと感じている。 観客側だけでなく、演者を筆頭とした届ける側の充実感をひしひしと感じた公演でもあった。 賢太郎さん自身も今後に向けて、かなりの手応えを感じたんじゃないかしら?


欲を言わせていただけば、特典映像は厳しいとしても、本編だけでも円盤を出しては頂けませんか? 欲しい人達に行き渡るように、受注生産はどうでしょう? あわせて台本も欲しいです、賢太郎さん。あるいはアンコール公演で再配信とか。 カジャラジオみたいに『回廊』も配信期間終了からの消滅(嫌あぁーーーっ!!)になりそうでとても怖いのです。 楽しかった思い出ではなく、手元に置いていつでもアクセスしたい。是非、ご検討ください。



兎にも角にも面白かった『回廊』公演。

配信公演で秀逸だったことのひとつが幕が開く前の演出だ。 テロップで、チケットに同封されたのと同じ「賢太郎さんからのご挨拶文」が流れる。 音楽もとても素敵。この時点で観客はもう『回廊』の世界に足を踏み込んでいる。 ワクワクしながらも、ある種の緊張感を覚える厳かな時間。 そして場面は緑色が印象的な、美しいドレープが幾重にも重なる幕が降りた「架空の劇場」のステージへ。 この劇場の舞台と色とりどりの客席は、絵本「カキワリの劇場」でも訪れることができる。


ここからは思いっきり主観満載の、本編の感想を少し・・・。

構成は『回廊』について語る大きな箱の中に『繰り返し』がテーマとなる幾つものコントが収納されているイメージ。 外側の大きな箱は何となくだけど、どこかの誰かに大切に抱き抱えられているような感じがした。 世界を包み込むその人自身は、果てしなく広がる広大な宇宙へとつながっている。

そのどこかの誰かの一夜の夢のようにも感じられた『回廊』は、始まりがとても素敵。
此処ではない此処かもしれない何処かに一気にいざなわれた。

ランタンで辺りを照らす松本さんが醸し出す空気に圧倒されたオープニング。 作品テーマ『回廊』について語る独特の台詞回しも、音としての声の響きも、じんわりと全身に染み込んでくる。 彼にとっては回廊の一部である会場内を見渡す表情もとても味わい深い。 その雰囲気と佇まいに私はすっかり参ってしまった。なんて魅力的な役者さんだろう。この出会いに乾杯。

場内を満たす音、場の空気を支配する照明、それぞれは単純な形で構成されていながら 合わさることでどこまでも続くように感じられるカキワリの背景、 そのどれもが互いに調和し合い、これから始まる物語への期待を増幅させてくれた。

このオープニングと、対になるエンディングで流れた曲が、どちらもたまらなく良かった。


※ここから先は正式なタイトルを知らないので、各コントを「ぽい」タイトルで表記します。

■ 回覧板 ■
南さんの「回し魔だ!回し魔が出たぞー!」にめちゃくちゃツボった「回覧板」。 全員が出演するこの最初のコント、キャストそれぞれの個性が際立っていて、メンバー紹介みたいだなと思った。

このコントからは、知らず知らずのうちに自分が何らかのシステムに組み込まれてしまっている怖さを感じた。 そう言えば、子供の頃はお隣さんへ回覧板を持っていくのが私の仕事だったな。 シャイな私にはそれがとても苦痛だったのだけど、自分がその役割を担うことに対しては不思議と疑問は感じていなかった。 そういうものだと思っていた。そこには私の意思はない。 どうやら当時の私は、大人達の思惑通り、何の自覚もなく町内のシステムにまんまと組み込まれていたらしい。

またこのコントでは途中で回覧板に文章が追加→削除されたけれど、回覧板の基本的な内容は変わっていない。 全員に「同じ情報」が届けられたのに「同じ情報」を受け取ったハズの6人が6人とも全く違う反応と解釈を見せた。 少しゾッとした。実は日常でもそうなのかもしれない。 誰かと「同じ認識」で意思の疎通が図れるって、ひょっとしたら奇跡に近いのかも。

「回覧板」のラストでは、全員が並んで同時に台詞を言うシーンがあるのだけれど、言葉もタイミングもバラバラで不揃い。 この噛み合わない面白さが後々のコントへも引き継がれる。これもテーマの「繰り返し」に関係あるのかもしれない。


■ タイムトラベル ■
発想そのものがとても好きだったコント。衣装のインパクトも最大級。

自己紹介をするときの久ヶ沢さんの身のこなしにキュンと来た。何?あの足取り。続くはにかんだような笑顔。好き。 高笑いからの「自在だ!」と後半の「急に?」も大好き。 「これがタイムマシンなんだな?」に対しての「そうだ!」の口調もとてもとても好き。

辻本さんの「今日、勝つかなぁ〜」のタイミングと、その瞬間の芝居が凄く好き。上手いなあ。

竹井さん&辻本さんペアは、途中ものすごく大変だったんじゃないかな。時間が止まった時の演技。 あれは凄かった。微動だにしないんだもの。私もさっそく真似してみたけど、かなりしんどかった。 特に目がね。どうしてもまばたき我慢できないから。

そしてもしかしたら、この作品をやりたくて高崎さんにオファーかけたのでは?なんて思ってしまったあの役どころ。 声もそのビジュアルもあまりにハマり過ぎ。ピッタリ過ぎる。 全編を通して高崎さんが登場すると、面白いことをやっていても常に爽やかな風が吹いているような感じがして心地良かった。

配信映像では「客席からは決して観ることができないアングル」の映像を、存分に楽しませていただいたコントでもある。


■ 目道 ■
南さん最高!!なコント。「目々一」ってネーミングもツボ。
見た目の個性は時に最強の武器にもなるという一例で、その効果は「どう演じるか」によって、 ゼロにも100にもなるというお手本のようなコントだったと思う。

また丁寧に仕込んでおくことで、たった「指一本」の動きでも笑いを生み出せるのだということに感激した。 そうか、こんな風に積み上げていくのか・・・と。
これについて詳しく触れていた、特典映像⑦インタビュー「南大介に聞く」はすっごく面白かった。 南さんは賢太郎さんのところにいた頃、賢太郎さんといつもこんな話をしていたのかな?なあんて、とても羨ましくもなった。 「コントを作る」についての話、延々と聞いていたかったな。

で、この「指」のシーン、目語を理解するのがさも当然かのように淡々と処理する辻本さんの芝居があってこそだし、 間に買い物に来る竹井さんとのやり取りがまた強烈にツボった。好き。

久ヶ沢さんのシーンでの「半紙を貫き」からの「浮かび上がったと言う」までの一連も強烈にツボ。 高崎さんはここでもとても爽やか。「気づいたかい?」の台詞回しがとても好き。

このコント全体を通しての松本さんのナレーションがまた、たまらなく好きだった。燻銀の魅力。


■ ダブルブッキング ■
舞台装置の裏側を使って・・・というシチュエーションにまず感動。その時点で想像力を掻き立てられるからもう面白い。 特典映像②「無言しりとり」は、このセットの前で収録されていたよね。

竹井さん&松本さんによる劇場さんコンビの笑顔を伴った「ええ!」が好き。

決め台詞を言い放ち、破いた名刺を宙へ投げ上げる辻本さんが超絶カッコいい。そこからの演技がまた最高。 このコントでの辻本さんのキャラ、凄く好きだったな。

高崎さんの女子っぷりがとても自然。
南さんの劇場さんっぷりが「本物」みたいでツボ。

竹井さんの「ウチが取ったね♪」の台詞回しがめちゃくちゃ好き。私は、あんな感じの竹井さんを初めて見た気がする。


■ 無回転思考とステルストレーニング ■
笑った!とにかく笑った! このコントが一番笑ったかも。

私も腹筋用と二の腕用と足用のヤツを使ったことがあるから、あの状況がわかり過ぎる程にわかって、 可笑しくて可笑しくて仕方なかった。あれホント、自分の意思に関わりなく筋肉が動いてしまうからね。 めっちゃ涙出た。アニキ無敵!最高!そして本当に本当にお疲れ様でした。

よせばいいのに人は何故、好奇心の赴くままにレベルを上げてしまうのだろう。 深い。

無回転思考は面白い。 でも今回ばかりは久ヶ沢アニキが全部かっさらって行ったよね。最高過ぎた。
こんなシチュエーションを思いつくなんて、賢太郎さんもマッスルウエーブパット的な 何らかの機器を使ったことがあるのかしら?

そして、誰よりも貫禄のある松本さんにびっくり。


■ 無限双六 ■
大好き。

なんと言っても、辻本さんの歌唱力とその表現力の勝利。 シャウトもいいけど小さな声で歌うシーンにめちゃくちゃ感動した。上手いなあ。 そして、あんなに小さな声で歌っているのに、その声も歌詞もしっかりはっきり客席へ届いていることにも感動。 隣人の苦情にこの程度ならいいですか?と打診する時の台詞回しも、とてもとても好きだった。

この弾き語りシーンについては、配信映像でのクライマックスも良かったけど、個人的には初日に劇場で観た 辻本さん&松本さんペアの感じも物凄く好きだった。
配信映像では最初、辻本さん自身に向いていた悲しみの矛先が次第に社会へと移行し、その感情も次第に怒りに変わったように見えた。 初日は、悲しみややり切れなさがどんどん辻本さんの内側へ内側へと向かっている印象を受けた。 出口も救いもない、それでもなぜか生きている。そんな逃げ場のない心の叫びが切なくて仕方なかった。 背中から抱きしめるられるシーンも、その時のタイミングも、とてもとても好きだった。 他の公演日では、この場面、どんな雰囲気だったのだろう。

不思議だったのは、こんなに辛くて切ないのに、この場面で自分が大笑いしていたことだ。 あの時、少なくとも私はそこに自分の姿を重ねて見ていたというのに。 笑いって何だろう・・・と、戸惑いを感じずにはいられない作品でもあった。

「無限双六」は頭から終わりまで見どころ満載。
冒頭で松本さんが無限ループに耐えかね床に倒れ込むシーンなどもとても印象的。 若干記憶が曖昧だけど、ここ、初日は爆発はしてたけど、倒れ込まなかったんじゃなかったかな。配信の倒れ込む方が私は好きだ。 相手役の竹井さんに感情をぶつけるでもなく自己完結させての感情の爆発。 双六に興じる二人の関係の良好さが一瞬でわかる場面だった。
この感情の爆発も、そこまでの細かい表情や仕草の積み重ねがあるから、あんなに大きな変化がとても自然なのだ。 その後の両者のゲーム展開も終始見応えがあった。何気ないセリフのやり取りが面白くて、その巧さにワクワクした。
辻本さんのドン底人生と、対する高崎さんの前途洋洋な人生&純粋さが溢れる爽やかっぷりとの対比も物凄く良かった。

演出の部分では特に、辻本さんがルーレットを回した後「振り出しに戻る(ここの「とほほ」の演技が好き)」での 竹井さん&松本さんペアのリセットの動きに感動。最後が竹井さんの「6〜」で終わるのも好き。 このリセットの動き、初日もあったかなあ?私が見逃しただけ?
初日はこのコントは、全体的にもっとぼんやりしていたように記憶している。二つの場面の関係性も少し曖昧だった印象。 「無限双六」は配信映像を見た時に他のどのコントよりもストンと腑に落ちた感があり、 配信公演を観たことで強烈に好きになった。

「無限双六」の面白さは、隣り合うふたつの世界が相互に作用し合う無限ループの上にあることで成立しているのだけれど、 片方がその関係性に気づき始めたところで「振り出しに戻る」ことにゾッとした。ある仕組みの中で永遠に繰り返されるゲーム。 ふたつの世界は一見よく似ているように見えて実は、その本質が全く違うところも面白い。 かたや上がりのない世界、かたや上がりが何パターンもある世界。 私がいるのはどちらの世界だろう。願わくば・・・。

それにしても、もしも本当に知らない誰かが回したルーレットで、自分の未来が決められているのだとしたら・・・。 やだやだ。どんなことも全部自分で決めたいよ。


■ そばをください ■
好きっ!
いっちばーん好きっ!最高!
こういうの待ってた!!!
この「何を見せられてるんだろう?」感がたまらなくツボ。

特に南さんの出はけの動きや、辻本さんに対しての演技がとても好きだった。

初日以来「わんこそば」を食べたくて食べたくて仕方ないのだけれど、周辺に食せるところがないため、 とりあえず「ざるそば」で気持ちをおさめている。どうやら観劇後にそばを食べた人が割といたようだ。 ざるそばを小さめの器に小分けにして、いっぱい並べて、ひとり「わんこそば」遊びをするのも楽しそう。 掛け声は「そばっ!」

たった一杯のそばから果てしなく世界が広がり続けることに戦慄すら覚えた、 コント史にも残るであろう珠玉の名作「そばをください」。

キャスト全員が大真面目に演じているのがこのコントの肝なんだろうね、多分。
コントって、笑いって、奥が深い。

実は「そばをください」は、初見では意味のないフィジカル・コントに見えたのに、 笑い疲れて、冷静になってからじわじわと怖くなったコントだ。

本来なら当たり前に手に入るはずのモノ、あるいは辻本さんその人のモノであるはずの「何か」が、目の前にありながら いつまで待っても手に入らない。彼の「夢」かもしれないソレは、見せつけられ続けるだけで終わってしまうのだ。 手を変え品を変えループし続ける、絶対に満たされることのない現実・・・。 結局彼は、最後までそばを食べられない。自分の人生では自分が主人公なハズなのに。

あんなに笑ったのに、めちゃくちゃ怖いコントじゃないか!これ!!


■ 回廊 ■
公演のオープニングとセットと思われるコント。 無限ループの途中、同じところへ戻ってきて、また此処からループが始まる。 低めの位置に6つ並んだ電球が素敵に雰囲気を盛り上げていた。

このコントでは、繰り返しの中から生まれるバリエーションと、繰り返しそのものが持つ意味と意義が どんどん変化していく様子が面白かった。

出どころがわからない会話がループするシーンがとても好き。 皆の掛け合いがヒートアップし、会話のスピードが上がり、互いの台詞の間合いがどんどん短くなっていく ヒリヒリするような緊張感にドキドキした。凄くカッコ良い。

辻本さんの「あの男を立ち止まらせたいんだな?」の台詞回しが凄く好き。「立ち止まらせたいんだな?」部分の 言い方も、イントネーションも、それに伴った表情も。

久ヶ沢さんの「名前かな」が大好き。台詞回しも、その時の身のこなしと脚を伸ばした身体のラインの美しさも。

このコントの竹井さんからは特に、特典映像で久ヶ沢さんが言われていた「そこに重心がある」「大人のコントになる」 を感じた。本当に何だろう、あの安定感と安心感。

「ひとりで回ってみようかな」の南さんも、カッコ良かったな。


このコントは、ラストシーンがまた意味深。
毎日毎日、同じ練習を繰り返していたら、ある日突然自転車に乗れるようになった・・・とか、 以前はキーをひとつひとつ確認しながらでしかキーボードを打てなかったのに、 今ではどこのキーを押そうなどと考えなくても、頭の中で文章を思い浮かべるだけで自然と指が動き 文章が打ち込める、それもブラインドタッチで・・・・とか、

上手くいかない間はそこに意味なんかないように思えていたことが、 繰り返し続けることで、ある時それも突然に、意味があることに変化する様子に似ている。 意味もわからず回廊を回り続けていた彼等が、些細なきっかけをクリアした瞬間に 新たな回廊=ステージに上がったような印象を受けた。

1人と5人だった彼等が手を取り合って6人になったことで世界が変わる。 「やってもやらなくても意味がなかった」繰り返しは「意味、あったんじゃないか?」へ。 6人は今後、見た目は同じに見えるのに、さっきまでとは確実に違う 新しい次元でのループを繰り返すことになるのだろう、多分。

生きるって、繰り返すことだ。
意味があっても、なかったとしても。

回れとも回るのをやめるなとも言われていない回廊を回り続ける。 やってもやらなくてもいいそれを「意味あるもの」にできるのは、回り続けた人だけなのかもしれない。



KAATの大スタジオという施設そのものの構造もこのコントにかなり貢献していたと思う。 賢太郎さんはこの大スタジオを、いつかこんな風に使ってみたいと前から狙っていたのかしら?

どうやらKAATの練習場には、大きな窓からたっぷり日差しが入る素敵なお稽古場もあるらしいし、 もしかしたら今後も配信公演を打つ時には、KAATが選ばれるのかもしれない。 だとすると、遠いな、神奈川・・・(独り言)。


今回、収録公演から配信終了までを通して強く感じたことは、私はやっぱり「小林賢太郎ワールド」が 大好きだということ。

配信終了からまだ1日なのに、既に回廊ロス。
始まる前はあんなに、賢太郎さんが出ない舞台と対峙するのが怖かったのに、心配なんていらなかったね。 それすらも凌駕する強さがあったよ。作品にもキャストにも、あの唯一無二の空間にも。

今はまだ、演者としての賢太郎さんがいない舞台を、 本当の意味で受け入れられた訳ではないけれど、それでもやっぱり面白いものは面白いってことが実感できた。 それだけでも私にはとても良かったと思う。 架空の劇場:コントロニカのこれからがとても楽しみだ。

そして、またこの座組での公演を観たいと強く願っている。賢太郎さん、是非是非!!





2023/05/08  シアター・コントロニカへ戻る ▶︎