架空の劇場「コントロニカ」について、日々思うこととか感想とか。
シアター・コントロニカへ戻る ▶︎
2023年
2023/01/23(月)
『 アブラーゲ 』のこと
note
どちらの世界も愛おしい
カテゴリー:小説・エッセイ・漫画
架空の劇場「コントロニカ」第二弾は『 アブラーゲ 』
「小林賢太郎のノート」で既に発表された物語が17分27秒のラジオドラマに。
■出演:竹井亮介/辻本耕志/松本亮
■脚本・演出:小林賢太郎
賢太郎さんが「奇妙な旅」と言うこの物語、既に何度もリピートした。
竹井さんの柔らかな声が耳に心地いい。
再生ボタンを押すための画面のデザインに、幼かった頃のことを思い出した。
ラジオドラマと銘打ってはいるけれど、子供向けの絵本についていた「ソノシート」や「レコード盤」もイメージにあったのかもしれない。
私が幼かった頃はデジタルとアナログの音声がもっと混沌としていた。
ターンテーブルに針を落とす瞬間がとても好きだった。
上手に針を落とさないと盤にキズが入ってしまうから、その瞬間は毎回必ず息を止めた。
あのワクワクと緊張感。「白雪姫」とか「カラスの染め物屋」とか、擦り切れる程聞き込んだ物語達。
中には挿入された音楽が好きで繰り返し聞いた作品も・・・懐かしい。
いつしかそれはCDやDVDに姿を変え、今ではスマホでQRコードを読み込んで音声データにアクセスする、なんてのもあるらしい。
音質や演出効果などは格段に進化したとは思うけど、あの何とも言えない独特の緊張感はもう手軽に味わえないのだなと、少し寂しくも思う。
「レコード盤」を体感として知っているせいだろうか、コントロニカの『 アブラーゲ 』からは少し懐かしさを感じる。
いつの時代とかではなく、自分の中にある懐かしさみたいな感覚。
「小林賢太郎のノート」にアップされた文字の『 アブラーゲ 』からは感じなかった不思議な感覚。
文字の『 アブラーゲ 』から感じたのは「ポツネン氏の奇妙で平凡な日々」の空気感だった。
しかも私のイメージでは賢太郎さんの読み聞かせ。スタジオのような空間、椅子に座る賢太郎さん。
背景はあるようでない。抽象的な照明が背景として都度切り替わる。幻燈のようでもスライドのようでもあるそれはぼんやりと揺らぐ。
場面ごとのビジュアルは自分の頭の中に浮かんでは消える。
そこには賢太郎さんの「演じ過ぎない」声が流れている。この「演じ過ぎない」がとても重要。
今回、コントロニカで『 アブラーゲ 』が発表されたことで、
どんな媒体でどう演出するか、誰が演じるかによって、作品世界は全く別のモノになるのだなと感じた。
コントロニカ版『 アブラーゲ 』も可愛くてちょっと怖いところが好き。
でも同時に、改めて気がついたことがある。
今後は私の頭の中にしか「新しい作品を演じる賢太郎さん」はいない。
何を今更・・・。
頭では理解しているし、賢太郎さんのこれからを楽しみにしているのも本当なのに、私の「感情」はまだその事実を納得できていないらしい。
乗り越えたと思っていた「パフォーマー賢太郎さん」への未練。こうして新作を楽しみならがも拭いきれない寂しさ。
これは作品の良さやその完成度とは全く別の部分である「私個人の感情」の問題だ。
こんな時、過去の作品達が私を助けてくれる。映像を残してくれたことには心底感謝。
今でも円盤をセットすれば、ヨイチにもシノダさんにも富樫くんにも愛しのコミヤヤマ先生にも会いに行ける。
これで自分が幸せになれるのなら、どんどん過去に助けてもらえばいいじゃないか。
それに、私の頭の中にしかないとはいえ「賢太郎さん版」と「コントロニカ版」の両方を楽しめるって、めちゃくちゃお得な気もする。
もしかしたら無理に乗り越えようとあれこれ頑張るよりも、もっと成り行きに任せて、
その時その時の自分を受け入れた方がいいのかもしれない。感じるままでいいのかもしれない。
これからへの期待とは別に、大切にし続けたいモノがある。
それはそれ、これはこれ。どちらの世界も愛おしい。
結局私は欲張りなのだ。
2023/01/23 シアター・コントロニカへ戻る ▶︎